(メイン画像:撮影:上山陽介)
“サラバ青春”で締めくくられた、チャットモンチー最後のワンマンライブ
7月4日、日本武道館にて、チャットモンチーにとって最後のワンマンライブ『CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~』が開催された。最後に演奏された曲は、“サラバ青春”だった。全国の映画館でライブビューイングが行われ、WOWOWでも生中継されていたこの公演が終わったあと、SNSのタイムラインには、「私の、僕の、青春も終わってしまった」というような書き込みが溢れていて、それぞれの日々とチャットモンチーの音楽を重ねながら「青春」を味わっていたリスナーがどれほど多くいたのか、ということを改めて実感させられた。でも、私が武道館で観て感じたのは、「チャットモンチーにとっての青春は終わっていない」ということだった。
チャットモンチー“サラバ青春”(Apple Musicはこちら)
最後のワンマンライブをどのような編成で行うのかは、当日まで一切発表されていなかった。橋本絵莉子と福岡晃子の2人だけでやり通すのか、それともこれまでのサポートメンバーを総動員するのか、はたまた、「高橋久美子が入るのでは?」なんて予想もファンのあいだでは飛び交っていた。常にファンもスタッフもメディア関係者も含めたすべての人の予想を飛び越えるかたちで「変身」を繰り返し、期待を「裏切る」ではなく「上回る」ことをしてきたチャットモンチーは、最後の最後まで、驚きの「変身」を見せた。これが、今月で終わりを迎えるバンドのライブであるとは、にわかには信じがたかった。
手をつなぎながら登場した橋本絵莉子と福岡晃子。撮影:古溪一道
最後のアルバムをチャレンジングに披露した、第1部
約2時間半の公演は、中間に過去を振り返る映像を挟んだ2部構成だった。前半は、2人だけがステージに立ち、打ち込みと生演奏を混ぜた「チャットモンチー・メカ」編成で、『誕生』の楽曲がアルバムの曲順通りに演奏されていく。本業はベーシストであるにもかかわらず、“たったさっきから3000年までの話”では、左手でキーボードを弾きながら右手でドラムを叩いたり、DJみそしるとMCごはんをゲストに招いた“クッキング・ララ”では、microKORG(シンセサイザー)を肩に担ぎながらステージを歩いたりする福岡の姿には、音楽家としての器用さと、人間としてのタフさを感じさせられる。また、「徳島のときから今までのことを歌った」と紹介し、自分たちのことを「イノシシ年のロックスター」と歌う“裸足の街のスター”では、橋本がコンガを叩き、福岡がカリンバを弾くなど、いくつもの挑戦を積み重ねながら曲が鳴らされた。
『誕生』の楽曲を生で聴いて、改めて感じたことがあった。それは、橋本の歌が、かつては「薄い紙なのに、赤い血が飛び出てしまうほどの刃」ともたとえられるような、可愛らしくて細いのに鋭さのある声だったが、今は、とてもふくよかな声に変わっているということ。かつては「尖ってた」と、今や笑い話のように語る2人の心の在り方が変わったゆえに生まれている変化なのだろう。
『誕生』での挑戦は、打ち込みを用いながらも、流行りのトラックメイキングの手法に則ることなく、あくまで自分たちのやり方で、なおかつ、橋本のふくよかな声と、拙くて少しイカついサウンドを混ぜることだった。流行りやシーンに寄り添おうとはせず、スムースに聴き流せるような音楽ではなく、どこか「歪さ」を残す。それこそが、チャットモンチーがこれまでずっと貫いてきたオルタナティブなスタイルだった。
最初で最後、弦楽六重奏を招いた「チャットモンチー・アンサンブル」編成
さらに驚かされたのが後半だ。ヒストリーを振り返る映像が流れ終わったあと、幕が開くと、6人の弦楽奏者たちがステージ上にいる。そして、その前に立つのは、指揮棒を持った福岡。ベーシストからドラマーに転身し、その後打ち込みをマスターした福岡が、最後は指揮者になった。「いや、そこ、プロの指揮者を呼んでもいいんじゃないの?」とも思うけれど、そうしないのが、インタビューで「見たことのない景色が見たくなるんですよね」と言っていた永遠の青コーナー・福岡であり、チャットモンチーである(チャットモンチーに訊く「完結」の理由。そして今後の展望は? / チャットモンチーは永遠の挑戦者?変わり続ける二人の核心を訊く)。
第2部の幕が開く直前。この影の正体は福岡晃子だった。撮影:上山陽介
「チャットモンチー・アンサンブル」というネーミングで紹介された、佐藤帆乃佳(1st Violin)、藤縄陽子(1st Violin)、亀田夏絵(2nd Violin)、須原杏(2nd Violin)、菊地幹代(Viola)、結城貴弘(Cello)の演奏をバックに、“majority blues”“ウィークエンドのまぼろし”“例えば、”が歌われる。弦アレンジを務めたのは、2015~2016年に「乙女団」と題したサポートチームでピアノを担当していた世武裕子だ。これらが、本当に、鳥肌が立つほど美しかった。
そして次は、橋本がデビュー前からリスペクトを寄せているHi-STANDARDのドラマーであり、2014~2016年に「男陣」と名付けられたサポートチームでドラムを叩いていた、恒岡章が登場。チャットモンチーの2人、恒岡、「チャットモンチー・アンサンブル」の6人の計9人で、メジャー1stフルアルバム『耳鳴り』の1曲目“東京ハチミツオーケストラ”が演奏される。
最後のインタビューで橋本は、「変身するたびに自分たちの曲をアレンジし直してきて、『もう、曲も本望やろ』って」と話していたが、最後にこのような大変身を遂げるなんて、曲自身もびっくりしていることだろう。それにしても、これほど素晴らしかった「チャットモンチー・アンサンブル」を聴けるのは、この日が最初で最後だなんて。繰り返すけれども、にわかには信じがたいし、こんな挑戦を解散ライブでやってくるバンド、他にいない。
高橋久美子の存在も、確かにそこにあった
「最後のライブ」というと、どうしたって、それまでの活動を総括するようなライブをイメージするし、それを求めるファンも多いだろう。でもこの日、過去を振り返ったのは、あいだで流れた映像部分だけだった。他はすべて、「最新型」のチャットモンチーを見せる内容だった。
でも、あえてひとつ言うならば、2011年に脱退した高橋久美子の存在は、とても大切にしながらその日が迎えられていた。ステージ上には登場しなかったものの、高橋が作詞した『誕生』収録曲“砂鉄”はもちろん演奏されたし、他にも、橋本と福岡のはからいで高橋の最新著書が会場にて販売されていたり、高橋から愛のこもった大きな花が届いていたり、映像も高橋の存在をすごく大事にした内容に仕上がっていたり。しかも、意図的か偶然かはわからないが、本編最後に演奏された“ハナノユメ”から、アンコールの“シャングリラ”“風吹けば恋”“サラバ青春”まで、チャットモンチーがラストワンマンで最後に演奏した4曲はすべて、高橋作詞による楽曲だった。
アンコールで“シャングリラ”“風吹けば恋”を歌うチャットモンチー。撮影:古溪一道
橋本と福岡は、日常を「青春」に変える術を知っている人たちだ
最後に演奏された“サラバ青春”。福岡がグランドピアノを弾き、橋本がそれに乗って歌う。この曲は、学校の卒業シーンが描かれた1曲であるが、今2人が<本当にこのまま終わるのかってことさ><毎日が本当は 記念日だったって今頃気づいたんだ>と涙ぐみながら歌うと、チャットモンチーとしてメジャーで活動してきた13年間が「青春」であり、それに「サラバ」しているかのように聴こえた。
それは、つまり、学生の「青春」が終われば、チャットモンチーという新しい「青春」が始まっていたということだ。そして、チャットモンチーという「青春」が終われば、また違う景色の「青春」が、2人には始まるのだろう。最後のインタビューで語ってくれたように、常に「いいなと思ったものに迷いなく飛び込む」ことを恐れず、「何事も、笑いに変えていけたらな」という考え方で生きている2人は、どんな場所でも自分たちの日々を「青春」にする術を知っている。
この日、Zepp DiverCityでは、Ken YokoyamaとNAMBA69によるライブが開催されていた。恒岡も在籍するHi-STANDARDが2000年に活動休止後、メンバーそれぞれが組んだバンドの対バンライブだ。2000年の活動休止時に、11年後に活動再開し、18年ぶりのアルバムをリリースし、それぞれのバンドでの対バンライブを開催するだなんて、一体誰が想像しただろうか。
当日、関係者に配られた資料には「“完結”後のふたりも、引き続き宜しくお願い致します」と書かれていた。2人の今後の予定は現在白紙だそうだが、人々の想像を「裏切る」ではなく「上回る」ことをしてきたチャットモンチーだ。それに、常に世の中の「こうあるべき」を疑い、タフな心と柔らかい笑顔で抗ってきた2人だ。「チャットモンチー」というプロジェクトは一旦完結したとしても、橋本絵莉子と福岡晃子という人間から、今後なにが出てくるのかーーきっと、我々の予想を飛び越えたかたちで、それぞれの姿を見られるのではないだろうか。「完結」間近の2人に期待やプレッシャーなどを背負わせたくはないが、ぼんやりと、気長に、待っていたいと思う。
そして、Hi-STANDARDがチャットモンチーに影響を与えたように、チャットモンチーが次の世代に与えた影響は、永遠に受け継がれる。トリビュートアルバム『CHATMONCHY Tribute ~My CHATMONCHY~』の参加に選ばれ、6月25日に渋谷WWW Xにて開催された最後のライブハウス公演でチャットモンチーと共演した素晴らしい2組の若手アーティスト「月の満ちかけ」「ペペッターズ」然り、武道館公演を観に来ていた「きゃりーぱみゅぱみゅ」や「CHAI」、花を贈っていた「SHISHAMO」や「yonige」然り、チャットモンチーは多方面に影響を与え、いくつもの新しい扉を開いた存在だ。チャットモンチーの功績は、音楽に携わる人たちに受け継がれ、リスナーの心に数多のポジティブな力を宿し続けるだろう。
- イベント情報
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- 『CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~』
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2018年7月4日(水)
会場:東京都 九段下 日本武道館
- リリース情報
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- チャットモンチー
『CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~』初回仕様限定盤(Blu-ray) -
2018年10月24日(水)発売
価格;5,724円(税込)
KSXL-271
- チャットモンチー
『CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE ~I Love CHATMONCHY~』初回仕様限定盤(DVD) -
2018年10月24日(水)発売
価格;5,184円(税込)
KSBL-6325
- チャットモンチー
- リリース情報
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- チャットモンチー
『BEST MONCHY 1 -Listening-』完全生産限定盤(3CD) -
2018年10月31日(水)発売
価格:3,996円(税込)
KSCL-30067~70
- チャットモンチー
『BEST MONCHY 1 -Listening-』期間生産限定通常盤(2CD) -
2018年10月31日(水)発売
価格:3,456円(税込)
KSCL-30071~3
- チャットモンチー
『BEST MONCHY 2 -Viewing-』完全生産限定盤(2Blu-ray) -
2018年10月31日(水)発売
価格:5,940円(税込)
KSXL-265~7
- チャットモンチー
『BEST MONCHY 2 -Viewing-』完全生産限定盤(4DVD) -
2018年10月31日(水)発売
価格:5,400円(税込)
KSBL-6317~21
- チャットモンチー
- リリース情報
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- チャットモンチー
『誕生』初回生産限定盤(CD) -
2018年6月27日(水)発売
価格:3,240円(税込)
KSCL-30062/3
※三方背ケース、ハードカバーブック仕様1. CHATMONCHY MECHA
2. たったさっきから3000年までの話
3. the key
4. クッキング・ララ feat. DJみそしるとMCごはん
5. 裸足の街のスター
6. 砂鉄
7. びろうど
- チャットモンチー
『誕生』通常盤(CD) -
2018年6月27日(水)発売
価格:2,592円(税込)
KSCL-300641. CHATMONCHY MECHA
2. たったさっきから3000年までの話
3. the key
4. クッキング・ララ feat. DJみそしるとMCごはん
5. 裸足の街のスター
6. 砂鉄
7. びろうど
- チャットモンチー
- リリース情報
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- チャットモンチー
『たったさっきから3000年までの話』(7インチアナログ) -
2018年6月6日(水)発売
価格:1,512円(税込)
KSKL-8534
- チャットモンチー
- プロフィール
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- チャットモンチー
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橋本絵莉子(Gt,Vo,Syn)・福岡晃子(Ba,Dr,Cho,Syn,Perc,etc.)。2000年徳島で結成。2005年メジャーデビュー。2006年リリースのSG『シャングリラ』がヒット。2007年リリースの2nd AL『生命力』に続き、2009年リリースの3rd AL『告白』は、オリコン初登場2位を記録。2008年には、初の日本武道館公演を開催。メジャーデビューから2年4か月での日本武道館2days公演は、女性ロックバンドとしては史上最短(※当時)で、現在のロックシーンを代表するバンドへと成長を遂げる。2011年にDr.高橋久美子の脱退により、橋本、福岡の2ピース体制となる。2014年には、サポートメンバーを迎えた体制での活動を発表し、6th AL『共鳴』を15年にリリース。そしてデビュー10周年の日本武道館公演を行い、2016年には郷里徳島で主催フェスを2daysで初開催。大成功を収めた。デュオ「橋本絵莉子波多野裕文」(橋本)やユニット「くもゆき」(福岡)での活動、CM歌唱(橋本)や徳島での多目的スペースOLUYOの運営(福岡)など、それぞれ多彩な活動を行っている。2017年11月23日、2018年7月をもって活動を「完結」させることを発表した。2018年6月27日に、ラストアルバム『誕生』をリリース。
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