Omoinotakeとは?渋谷の路上で歌とグルーヴと物語を磨いた3人組

ceroを影響源に挙げる3ピースバンド

去る1月22日、島根県出身の3ピースバンド、Omoinotakeが渋谷WWWにてワンマンライブを行った。この公演は、彼らが去年10月にリリースしたミニアルバム『Street Light』のリリースツアーファイナルとして行われたもの。

3人共が島根県出身のOmoinotakeは、中学の同級生だった藤井レオ(Key,Vo)と福島智朗(Ba,Cho)、そして、そこに冨田洋之進(Dr)が加わる形で、2012年に東京にて結成された。ライブハウスのみならず、渋谷のスクランブル交差点を中心とした都内での路上ライブ活動でも、その認知を広げてきたバンドだ。

左から:福島智朗、藤井レオ、冨田洋之進

Omoinotakeが鳴らすブラックミュージックからの反響が色濃い音楽性は、1~2年前だったら「シティポップ」という言葉で語られていたものだろう。実際、「音楽ナタリー」に掲載されたインタビュー記事によると、彼らはそもそものルーツは違えど、近年のシティポップの隆盛を参考にしながら、自らの音楽的な方向性を固めていったそう。

なかでも特に大きな影響源になったのが、ceroが2015年にリリースした傑作『Obscure Ride』だったそうだ。もちろん、これは「流行に合わせた」という類の話ではなくて、「ギターレス」という自分たちの編成を活かしきれる音楽性を探し歩いた結果、「ブラックミュージックを消化したヨコノリのグルーヴ」という方向性に辿り着いた、ということだろう。

何故、その音を鳴らすのか?

話は逸れるようだが、「何故、その音を鳴らすのか?」という問いかけは、音楽家にとって簡単に言語化できるものではないにせよ、とても重要なものなのだと最近特に思う。私たちが生きる人生や社会においても、「自由」という言葉の裏には常に「責任」が付き纏うように、もはや「ジャンル」という概念で音楽を語ることがほとんど意味をなさなくなった昨今、様々なツールで、様々な要素を混ぜ合わせて「自由」に音楽を作ることができる状況だからこそ、プロダクションの話であろうが、歌詞の話であろうが、選び取られた形式、選び取られた1音1音、選び取られた1フレーズ1フレーズには、その音楽家が背負うべき「責任」や「意志」がある。

「何故、その形式で音楽を作るのか?」「何故、その音を選び取ったのか?」――無論、そうした問いに、音楽家が一つひとつ明確に言語化して答える必要はないと思うが、しかしながら、これだけの情報量の時代に音楽を聴く身としては、そこに、その作家なりの「たしかなもの」があってほしいと思うのだ。King Gnuの常田大希は、CINRA.NETのインタビューで「語法としてポップスを取り入れただけだと、本当のポップスになりえない」と語っていたが、本当にその通りだと思う(参考記事:King Gnuが泥臭さと共に語る、若者とロックバンドが作る「夢」)。

そういう意味で、Omoinotakeは今まさに、自分たちの「意志」や「責任」のもとに鳴らすことができる音楽を形作り始めている――この日、渋谷WWWでの演奏を観て、筆者はそう感じた。

ライブは2017年にリリースされたミニアルバム『beside』に収録された“Freaky Night”で始まったのだが、冒頭は正直、あまりピンとこなかった。パーカッションとサックスのサポートを加えた5人編成でライブは始まったのだが、そうした、ある種ゴージャスな音作りが、どこか装飾過多に聴こえたのだ。

Omoinotakeと、サポートメンバー・柳橋玲奈(Sax)、ぬましょう(Per) / 撮影:後藤壮太郎

しかしながら、5曲目、新作『Street Light』に収録された“Bitter Sweet”でサポートの2人が一旦ステージを去り、「3人」というOmoinotakeにとって最も原初的でミニマルな編成によって、その繊細でしなやかな音像が鳴らされた瞬間に、心と体を揺さぶられるものがあった。藤井の力強い歌唱と、空間全体をメロウに彩りながら、でも沸々と振動させていくような、近年のトラップやR&Bとも共振するようなサウンド。これがとても、彼らの「身の丈」……というか、「想いの丈」に合っているように感じられたのだ。

Omoinotakeの3人だけのステージ / 撮影:後藤壮太郎
Omoinotake“Bitter Sweet”(Apple Musicはこちら

ストリートで戦ってきたからこそ抱いている「想いの丈」

先に挙げた「音楽ナタリー」の記事によれば、『Street Light』という作品タイトルには、彼らが島根から上京してきて、渋谷のスクランブル交差点で路上ライブを重ねるなかで培った想いや、そこで見た景色が反映されているのだという。

彼らが向き合い続けたであろう、街を行き交う人々――自分の経験を振り返ってみても、路上でライブを行う音楽家の演奏に熱心に耳を傾けることは稀だ。街には様々な音が鳴っているし、そもそも、街を歩く人たちには約束や目的がある場合が多いのだから、路上の音楽家に耳を傾けたり立ち止まったりする時間や余裕などないことが多いだろう。そんな状況のなかで、自分たちの音楽を伝えるためにOmoinotakeが磨き続けて、選び取った音やフレーズの力。それは、“Bitter Sweet”だけでなく、アンコールで演奏された“Never Let You Go”など、『Street Light』収録曲には特に反映されているように感じられた。

Omoinotake“Never Let You Go”(Apple Musicはこちら

福島智朗 / 撮影:後藤壮太郎
冨田洋之進 / 撮影:後藤壮太郎
藤井レオ / 撮影:後藤壮太郎

Omoinotakeは、「想い」や「物語」を聴き手と重ねていく

また、セットリストの構成によるところも大きいのか、曲を重ねる毎に徐々に熱量を上げていくような流れも印象的だった。最初は装飾過多に感じられたパーカッションとサックスの存在も、曲を重ね、フロアの熱量が高まっていくにつれて必要不可欠なエッセンスへと変わっていったし、MCでたびたび語られた故郷への想いや島根から上京してきたバンドの物語が、ライブのエモーションへと変換されていくような感覚もよかった。

Omoinotakeが、ただ「お洒落な音楽」として消費されたり、ただ「ポップで踊れる」という機能性において摂取されたりするのではなく、聴き手と「物語」を重ね合わせていくバンドなのだと、この日のライブの徐々に高まっていった熱量が伝えているようだった。彼らがこの先、その人生と音楽を重ね合わせながら、どれほど熱気に溢れる空間を作っていけるのか、楽しみに見ていたい。

撮影:後藤壮太郎
イベント情報
『Street Light Release Tour』

2019年1月22日(火)
会場:東京都 渋谷WWW

リリース情報
Omoinotake
『Street Light』(CD)

2018年10月10日(水)発売
価格:1,823円(税込)
NEON RECORDS / NECR-1017

1. Stand Alone
2. Never Let You Go
3. Still
4. Temptation
5. Bitter Sweet
6. Friction

プロフィール
Omoinotake
Omoinotake (おもいのたけ)

島根県出身。Key / Vo藤井レオ、Bass / Cho福島智朗(エモアキ)、Dr / Cho冨田洋之進(ドラゲ)からなるギターレス、ピアノ・トリオバンド。中学からの同級生だった彼らが2012年東京で結成。渋谷を中心に活動、ライブを重ね、その人気と実力を形成してきた。特に渋谷のストリートライブではその集客が話題となり、メディアでも取り上げられる。インディーリリースながら2017年1stフルアルバム『So far』、1stミニアルバム『beside』がスマッシュヒット。その音楽性に注目され、早くから日本テレビ『バズリズム』等の地上波出演など、テレビやFMでプッシュされてきた。10月10日、2ndミニアルバム『Street Light』をリリース。ソウル、R&B、HIPHOPなどブラックミュージックの系譜からインスパイアされ生み出す彼らのセンス溢れるサウンドメイク、そして繊細ながらも情感を揺さぶる藤井怜央の魅力的なボーカルが、今の時代のカルチャーと相まって、今後最も活躍が期待されるバンドである。



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