15歳のトラックメイカー・SASUKEが、銀座のシークレットライブに登場
「偶発的な出会い」をコンセプトに、東京・銀座にある「Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)」で開催されているライブプログラム『Park Live』。出演者は公演当日の午前中にSNSで発表されるというこのライブイベントは、これまでKID FRESINOやアート・リンゼイ、ROTH BART BARON、マキタスポーツと立川吉笑……などなど、ジャンルも世代も国境も超えて、さまざまなアーティストたちが出演してきた。
そんななか、去る1月11日、15歳のトラックメイカー・SASUKEが登場。今話題の若き才能をひと目見ようと、多くの人が「Ginza Sony Park」に詰めかけていた。本記事では、終演後の本人インタビューとともに、この夜の模様を振り返る。
現役中学生が覚悟を滲ませ、力強く語る夢「ブルーノ・マーズとコラボしたい」
まず端的に言って、素晴らしいライブだった。ステージ上には、Mac Bookとキーボード、そしてSASUKEの代名詞とも言えるDAW機材(Digital Audio Workstation。音楽制作・録音ツール)「MASCHINE」。
登場するなり、冒頭のMCでは「今、まわりは受験シーズンだけど、僕だけ何もしてません!」と、冗談交じりに、高校受験を控える15歳の等身大の覚悟が滲むような言葉を発する場面も。終演後、この日のライブの感想から、そのMCに込めた想いも聞いた。
―今日の演奏はいかがでしたか?
SASUKE:いつもより楽しくやれました。これまで誰かと一緒のライブはありましたけど、自分だけを目当てに観に来てもらうことがなかったので。今日はひとりでステージに立って、これだけの人が集まって、そして盛り上がってくれたのが嬉しかったです。
―ステージでは受験の話もされていましたけど、この先の進路はどのように考えているのでしょう?
SASUKE:僕自身は、これからも音楽活動をしやすいように、地元の愛媛でも東京でも授業を受けられる高校に進学しようと思っています。もっと先の話をすると、行けるタイミングで、アメリカに行きたい。アメリカって音楽が栄えているし、楽しそうだなって思って。いろんなすごいアーティストが出てくると、「会ってみたいな」って思うんです。
―「会ってみたい」という原動力、素敵ですね。今は、どんな人に会いたいですか?
SASUKE:ブルーノ・マーズが大好きなので、会ってコラボしたいですね。あと、ルイス・コールが日本に来たときに会うことができたので、今度は僕がルイスに会いに行ってコラボしたいです。
Instagramに「PickUp Music」というアカウントがあって、世界のいろんなアーティストたちが演奏している様子がアップされるんですけど、そこに出てくるアーティストがすごくいいんですよね。そういう人たちにも、アメリカに行ったら会えるかもしれないし。
―本当に、世界中のいろんな音楽家たちからのインスピレーションを、今のSASUKEさんは一身に受けているんですね。
SASUKE:そうですね。やっぱり、影響はいろんな人に受けます。最近の人が、一周回って昔のような曲を作っていたりするのも、歴史的に見て面白いなって思うし。それに今はトラップとか、フューチャーベースとか、細かくいろんなジャンルの名前があるじゃないですか。「それぞれのジャンルにどんな人たちがいて、それがどうやって広まっていっていくのか」ということを調べるのも好きですね。
上記の発言のなかに出てきたルイス・コールは、去年、フライング・ロータスが主宰するレーベル「BRAINFEEDER」からリリースしたアルバム『Time』も話題になった、ロサンゼルスを拠点に活動するシンガーソングライター / マルチアーティスト。
2018年12月の来日公演の際、SASUKEはルイス・コールのライブが楽しみすぎて、オマージュ曲を作成し、Instagramにアップ。それがルイス・コール側のスタッフの目に留まり、実際にライブ会場でルイス本人と面会する機会に恵まれたそう。
ちなみに、そのオマージュ曲“hook it”もこの日は披露。Instagramに上げられた動画と同じようにサングラスと帽子を着用し、そのポップでアップテンポなサウンドに会場は大いに盛り上がった。
まわりと違うからこそ、自信を持てる。「最近は、『ちょっとは空気を読もう』と思っているんですけど(笑)」
しかし、これまでの発言を読んでもらえばわかると思うが、SASUKEは本当に大人びている少年だ。「若いのにすごい!」とか、「天才中学生!」とか、そういう言い方は失礼だと思わせるほどに、世界を見渡す視野の広さも、考え方も、そして、その実践の仕方もしっかりしている。そんな彼の学校生活がどんなものなのか、聞いてみた。
―学校は楽しいですか?
SASUKE:……正直、つらくなってきましたね(笑)。僕は、頭のなかに常に曲が流れていて、それをメモしておいてあとで形にしたりすることが多いんです。なので、時間がないと、どんどん作りたい曲が溜まっていく。学校で何かを思いついても、それをグッと我慢して授業を静かに聞かなきゃいけないっていうのは……つらいです。
―まわりと違うことに対して、不安感を抱くことはないですか?
SASUKE:それはないですね。昔から「まわりと違うから、自分だけ目立てるんだ」って、自信を持ってやってきたんです。最近は、「ちょっとは空気を読もう」と思っているんですけど(笑)。
―それはなぜですか?
SASUKE:ダンスが好きだったので、小学生くらいの頃は、無理やり友達にも踊らせたりしていたんですよ。その頃は小さいから何も気づかなかったけど、段々とまわりも思春期になって、静かになってきて、つい最近やっと「あ、自分って他の人と違うんだな」って気づいた感じがあって。
それからは、自分のやりたいようにするところと、大人しくしているところ、メリハリが必要だなと思っているんです。なので最近、学校ではメガネをかけて本を読んで、静かにしています(笑)。
―そうなんですね。どんな本を読むんですか?
SASUKE:物語のある小説が好きで、特に朝井リョウさんが好きですね。描写がすごく綺麗で、読んでいて世界に入り込めるというか、小説の世界のなかで休憩できる感じがするんですよね。それが曲のインスピレーションになったりします。
「僕は単純に音楽を楽しんでいるだけだけど、まわりがどんどん変わっていって、びっくりしている間に今に至った感じです」(SASUKE)
ライブが後半に差し掛かった頃に披露された“インフルエンザー”は、去年リリースされた、SASUKE初の配信楽曲。演奏前にSASUKEがタイトルを告げると会場から歓声が沸くほどの人気曲だ。キレのあるクールなトラックと、「学校で流行ったインフルエンザ」をモチーフにしたユーモラスな歌詞――大人顔負けのソリッドさと、少年らしい可愛らしさが織り交ざった世界観で、一気にフロアを侵食していく。
SASUKE“インフルエンザー”(Apple Musicはこちら)
この“インフルエンザー”のリリースに加え、稲垣吾郎、香取慎吾、草彅剛のユニット「新しい地図join ミュージック」へ楽曲提供も行うなど、2018年は広くその名を知らしめることになったSASUKE。激動の渦中にいて、彼はどんな想いを抱いているのだろう?
―去年は“インフルエンザー”のリリース、「新しい地図join ミュージック」への楽曲提供と、SASUKEさんにとって、大きな躍進の1年だったと思うのですが。
SASUKE:そうですね、環境が一気に変わりました。僕は単純に音楽を楽しんでいるだけだけど、まわりがどんどん変わっていって、びっくりしている間に今に至った感じです。
僕はずっと音楽を遊びと同じように「楽しく」やってきたんです。先のことも、もちろん、今のような状況になることも想像できていなくて。ただ漠然と「スターになれたらいいな」っていう気持ちはありましたけど、あくまで「音楽が楽しいからやっている」感じだったんです。でも、路上でパフォーマンスし始めたら、思った以上に多くの方が見てくださった。今日は「ひとりでライブできたなぁ」という実感もあって……やっぱり、びっくりしています(笑)。
―自分がどんどん有名になるなんて、想像するのも難しいですよね。
SASUKE:でも、去年は嬉しい1年間でした。「新しい地図」への楽曲提供はステップが上がる瞬間だったし、自分の曲をリリースするのも、ずっとやりたいことだったので。iTunesの画面に自分の曲があるのを見たとき、感動しました(笑)。
―「新しい地図」に提供した“#SINGING”は、どんな想いで書かれたんですか?
SASUKE:「新しい地図」は、前の活動があり、今、新しい道に立っていると思うんです。僕はまだまだだけど、「これから頑張っていこう!」っていう状況でもある。そんな自分の気持ちも重ねて、「みんなで踊りながら前に進めるように」という想いを込めて書きました。
「みんな、音楽自体をもっと楽しんでほしい」という、願いを込めた曲作りも
この日、ライブの最後には、ドラマチックなトラックとSASUKEが繰り返す<自分を信じて>というフレーズが胸に染み入る1曲“Happy End”が披露された。このエモーショナルな名曲を作ったのは、小学校6年生の頃だという。この曲が生まれた当時の心境とはどのようなものだったのだろうか。
“Happy End”をSoundCloudで聴く
-本編の最後に披露された“Happy End”は、とてもエモーショナルな名曲ですが、小学生の頃に作られたそうですね。
SASUKE:小学生の頃は、今みたいにいろいろできる環境ではなくて、東京に来る機会も少なかったんです。愛媛の自宅でずっと曲を作りながら、YouTubeやSNSで人気のある人を見て「どうして僕はそこに行けないんだろう?」って思っていて。東京には機材屋さんもあるし、大きなCDショップもあるし、「都会はいいなぁ」っていう気持ちが強かったんですよね。“Happy End”は、そんな気持ちで書きました。
今はこうやって東京に頻繁に来ることができているので、東京に憧れを持って頑張っていた甲斐があったなって思います。
-曲作りは、純粋に音を楽しむ感覚で作るのか、それとも「何かを表現したい」とか「伝えたい」という原動力によって作るのか、SASUKEさんの場合はどちらでしょう?
SASUKE:どちらもあるんですけど、普段は遊びながら、頭のなかで流れた音楽を形にしていますね。そこで生まれた曲に歌詞を乗せるのがほとんどです。もちろん、生活しているなかでふと思ったことを表現するために作る曲もあります。……これは珍しいかもしれないですけど、「音楽に意味を込めるな」っていう意味を込めた曲を作ったりもしています(笑)。
-それは面白いですね。
SASUKE:「みんな、音楽自体をもっと楽しんでほしいな」っていう気持ちがあって。音楽の「意味」を重視しすぎたら、歌詞しか聴けなくなってしまうと思うんですよ。でも、「声も楽器の一部として、音楽を楽しんでいいんじゃないか?」と。
世の中よくないニュースだらけ。だから、「平成も終わるし、何かを変えていけたらいいな」
-これまで「言いたいこと」が前面に出てきた曲はありましたか?
SASUKE:ありますね。最近作った曲では、「怒りの感情を抱くな」っていう意味の曲を作ったりもしました。「怒り」は嫌いなんです。先生が怒っている姿とか、友達同士が喧嘩している姿とか、あと、ネットニュースで戦争の記事を見たりすると、やっぱり、全部悪い方向に進んでいくなって思うんですよね。「これらはなぜ、なくならないんだろう?」っていう答えを探すために作った曲もあります。
-ニュースはよく見ますか?
SASUKE:速読ができるので、Twitterのニュースをバーッと読んだりしています。「戦争」っていうのは、わかりやすく言っちゃいましたけど、今はよくないニュースが多いですよね。でも、平成も終わるし、2010年代も終わるし、キリがいいので、何かを変えていけたらいいなって思うんですよね。
-「変えていきたい」……その意志は強いですか?
SASUKE:自分ではあまり言いたくないですけど(苦笑)、前に、「次の世代を担うアーティスト」みたいな言い方をされたことがあって。僕自身は自分をそういうふうに思っていないし、楽しく音楽をやっているだけなんですけど、でも、ありがたいことにそう言ってもらえている。できるのであれば、「次の時代はいいものにしよう」って思っていますね。
-失礼な言い方ですけど、思った以上に力強い言葉がSASUKEさんから出てきて、驚いています。
SASUKE:いや、できるだけ背負いたくはないですよ(笑)。でも、自分が明るく踊っている姿を見せたら、見ている人たちの心も明るくなってくれるかなって思います。僕が何かを背負っている姿を見せると、まわりも背負ってしまうと思うので……できるだけ、軽くやっていきたいですね(笑)。
約1時間にわたり、ラップあり、ダンスあり、フィンガードラムありの、躍動感と多幸感溢れるすさまじいパフォーマンスを披露したSASUKE。夢も、野心も、悔しさも、ユーモアも、あらゆる感情を引っ提げて、世界に全力で体当たりをしている彼の表現は、この先の未来、どんな場所へと向かっていくのだろうか?
彼よりもそれなりに長く生きている自分は、きっと彼がこの先、想像もつかないほどの悔しさや悲しさを経験することもあるだろう……そんなことを感じてしまったりもするのだが、しかし、大きな拍手で迎えられたアンコールで、ビートを打ち鳴らしながら「楽しくて仕方がない!」と言わんばかりに踊り狂うSASUKEの姿を見ていると、自分のどんな心配も、彼が全力で謳歌する「今」には敵わないような気がしてくる。そして、この先、彼が歌い踊るであろう世界中のあらゆる場所の景色を、見てみたいと思ってしまうのだ。
- イベント情報
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- 『Park Live』
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2019年1月11日(金)
会場:Ginza Sony Park 地下4階ライブハウスともクラブとも一味違う、音楽と触れ合う新たな場となる"Park Live"。出演者は当日まで発表しないシークレット形式のライブ。音楽との偶発的な出会いを演出します。
開催日:毎週 金曜日20:00 - 、不定期
- リリース情報
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- SASUKE
『インフルエンザー』 -
2018年12月26日(水)配信
- SASUKE
- プロフィール
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- SASUKE (さすけ)
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5歳からダンスを習い始め、10歳でニューヨークにあるアポロ・シアターの「アマチュアナイト」で優勝、14歳の時に原宿で披露した路上パフォーマンスをきっかけに様々なメディアに取り上げられる。新しい地図 join ミュージックの新曲「#SINGING」の作詞、作曲を担当、日本中で新進気鋭のトラックメイカーとして注目される。ダンスパフォーマンスから楽曲制作までを熟しSNSを通じて国内だけでなく海外からも楽曲制作のオファー殺到中、いま一番フレッシュな15歳現役中学生。
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