アルカラの赤坂BLITZラストライブ 想いはきっと、画面の向こう側へ

コロナ禍での無観客オンライン配信ーー自分たちが、その場所で演奏することの意味を問われたアルカラの「祈り」

7月13日、アルカラが、ライブハウス「マイナビBILITZ赤坂」にて無観客生配信ライブを行った。「サヨナラ、アカブリ。」と題されたこのライブ、そもそもは10枚目のオリジナルアルバム『NEW NEW NEW』を引っ提げたツアー「NOW NOW NOW」のファイナル公演として5月17日に開催が予定されていたのだが、新型コロナウイルスの影響により中止となったため、生配信が決定したというもの。会場となったマイナビBLITZ赤坂は、TBSによる「赤坂エンタテインメント・シティ構想」の一環として今年の9月22日に閉館、その後、同地は観覧機能付きスタジオに生まれ変わる予定だ。アルカラにとってゆかりの深い土地であったが、この日が彼らにとって最後の赤坂BLITZでのライブとなった。

アルカラ
稲村太佑(Vo / Gt)、下上貴弘(Ba)、疋田武史(Dr)の3人からなるロックバンド。自称「ロック界の奇行師」。ギターロックやオルタナティブロックなどの音楽性を基調としながら、一筋縄ではいかない自由奔放さで唯一無二の世界を築き上げている。

また、このライブ生配信はスペースシャワー、J-WAVE、CINRAの三団体が共同で立ち上げた「UNITED FOR MUSIC」プロジェクトの第1弾企画として行われたものでもある。オンラインチケットは前売り2,000円、当日2,500円でイープラスにて販売された。その売り上げはそれぞれの立場へのギャランティ含むライブ制作経費に充てられ、残った金額は、新型コロナウイルスの影響によって仕事を失ったライブハウス、アーティストやコンサートのスタッフ、収録スタッフといった人々に還元していくための、ライブエンタメ従事者支援基金「Music Cross Aid」へ支援金として寄付される。

60分という従来のライブよりはやや短い時間、無観客オンライン配信という形態……いろいろな面で、この日のアルカラのライブは自分が今までライブハウスに足を運び、体感してきたロックバンドのライブとは様相の異なるものだった。だが、ひとつの瞬間、ひとつの場所で起こる出来事に、様々な人たちの想いが交錯し、集約していくという面においては、やはり「ライブ」は「ライブ」だった。むしろ、こうした状況だからこそ、自分たちが今、その場所で演奏することの意味をバンドは強く問われただろう。

三波春夫の「お客様は神様です」という有名な言葉があるが、そこには、「神前で祈るときのように雑念のない気持ちでなければ、完璧な芸を見せることはできない」という意味が込められていたという。直接出会うことはできないが、カメラの向こうの様々な場所にいるはずの観客たち、同業者や仕事仲間たち、赤坂BLITZという空間とそこに刻まれた記憶……ほとんど人のいないガランとした会場だったが、しかし、その奥にあるあまりにも多くのものが「見えて」いたであろうこの日のアルカラの演奏には、「祈り」としての音楽の、芸事の在り様が、非常に色濃く立ち昇ってくるようだった。

稲村太佑(Vo / Gt)

稲村太佑はライブ中、「この土地」という言葉をよく使っていたが、「赤坂BLITZ」というライブハウスは、彼にとっては単なる「容れ物」ではなかった、ということだろう。MCで、このライブハウスに対する想いを語る場面もあった。

稲村:初めて、この赤坂BLITZのステージに立ったのは、2012年の、『スペシャ列伝ツアー』という僕たちの運命を大きく変えたツアーのファイナルでした。それから、Livemastersという方たちの夏の大事なイベントで立たせていただいたり、LUNA SEAのJさんのイベントで、難波(章浩)さんとスリーマンでここに立たせていただいたときには、「Jさんと難波さん、ロックスターとロックスターに挟まれて、アルカラもオセロでいったら真ん中がひっくり返ってロックスターの仲間入りや」って思ったり。去年も、僕らのツアーでこの土地、このステージを選ばせていただいて、ACIDMANを迎えてツアーファイナルをやらせていただきました。僕たちにとって大切なタイミングは、いつもこのステージでした。たくさんの素晴らしいライブがこの場所であったんだなと思うと、最後にこの場所を踏ませていただいて、BLITZに名前を刻ませていただいて、本当にバンドマン冥利に尽きます。

そして、その言葉に続いて、2012年の『スペシャ列伝ツアー』のために作られたという“やいやいゆいな”を演奏した。

下上貴弘(Ba)

バイオリンの響きが印象的な“サスペンス劇場 第2楽章”からの“瞬間 瞬間 瞬間”、そして“猫にヴァイオリン”という、新作『NOW NOW NOW』と同様の流れでライブは始まり、バンドのポップセンスが冴えわたる“アブノーマルが足りない”、久しぶりに演奏されたという“おうさまと機関車”、「行けど未来、去れど未来、這っていこうぜ!」という稲村の言葉に続き始まった“TSUKIYO NO UTAGE”、アンコールで、稲村がウナギの被りものをかぶって登場した、「土用丑の日」がモチーフの“今日のご飯はウナギ”、そして、2012年の『列伝ツアー』でも最後を飾ったという“交差点”……。トリッキーな曲展開に宿った音楽愛と遊び心、ユーモアを手放すことない誠実さと上品さ、メロディと歌声に刻まれた耽美な世界観……そんな、アルカラというバンドの「孤高」がハッキリとした輪郭を伴って強く伝わってくるライブだった。

疋田武史(Dr)

観客のいない会場での演奏。静謐な空気すら漂うそれは、小沢健二“天使たちのシーン”の歌詞じゃないけれど、宛てのない手紙を、それでも誰かに絶対に届くと信じて書き続けているような、そんな演奏だった。

最後に、この日も演奏された、“未知数²”の歌詞を引用しておこう。去年のアルバム『NOW NOW NOW』に収録された曲だが、コロナ禍以降の世界において、この歌詞の持つ切実さは確実に強まっている。

この前「地球の未来」
そんな科学のテレビを見たよ
あと何億年後か
この星は住めなくなるみたいさ

誰かの利害で
刹那を捨てるな
誰かのエゴで 心捨てるな
言わば僕ら 運命共同体さ
愛しい明日を
(“未知数²”)

これは、時代に問いかける歌。私たちの「つながり」に問いかける歌である。

ウナギの被りものをかぶった稲村とメンバー
イベント情報
『アルカラ無観客生配信ライブ「サヨナラ、アカブリ。」
at マイナビBLITZ赤坂 Supported by UNITED FOR MUSIC』

2020年7月13日(月)
場所:マイナビ赤坂BLITZ(無観客生配信ライブ)
料金:2,000円

『UNITED FOR MUSIC-Live 60- 9mm Parabellum Bullet』

2020年7月24日(金・祝)
料金:2,800円

『UNITED FOR MUSIC-Live 60- 阿部真央』

2020年8月5日(水)
料金:前売2,000円 当日2,500円

プロフィール
アルカラ
アルカラ

稲村太佑(Vo / Gt)、下上貴弘(Ba)、疋田武史(Dr)の3人からなるロックバンド。自称「ロック界の奇行師」。ギターロックやオルタナティブロックなどの音楽性を基調としながら、一筋縄ではいかない自由奔放さで唯一無二の世界を築き上げている。



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