国民的ロックバンドが27年間武道館に立たなかった理由
ついにスピッツが日本武道館のステージに立った。きっと意外に思われる方も多いと思うが、彼らが武道館で単独公演を行ったのは、実は今回が初めてのことなのだ。今年で結成から27年。すでにそのキャリアの大半を国民的人気ロックバンドとして歩んできた彼らが、聖地とされるこの舞台にここまで一度も立たずにきたという事実は、このバンドの頑なな姿勢と揺るぎない美意識を端的に示すエピソードでもあった(一方でそれをこうしてあっけらかんと覆すあまのじゃくなところもまた、スピッツをスピッツたらしめているのだが)。そんなこともあって、ファンの間では「これは解散する前触れなのでは?」という噂も一部で流れていたようだが、もちろん彼らはそれをMCであっさりと否定。ステージ上にいたのは、いつもとなんら変わらないスピッツの姿だった。
攻撃的なパンクロックに触発されてバンドをスタートさせ、一時期はRide(イギリスのシューゲイザーバンド、1996年に解散)など同時代のシューゲイザーから影響されて、自ら「ライド歌謡」と形容したこともあった活動初期。いま思えばあの頃からスピッツの理想とするものは一般的なサクセスストーリーとは別のところにあったし、次々とヒット曲を世に送り出すようになった1990年代中期以降も、その姿勢はさほど変わっていないように見える。スピッツはいつだって些細な感情を汲み取る歌を紡いでいたし、あくまでもそれをソリッドなロックバンドのフォルムで鳴らすことに腐心し続けてきた。彼らが武道館をはじめとした大規模なライブ会場にあまり積極的でなかったのは、自分たちのパーソナルな衝動から生まれた音楽がそうしたアリーナクラスのキャパシティーで共有されることに、どこかで違和感が拭えなかったからなのだろうと思う。
そんなスピッツにとって恐らくひとつの転機となったのが、2009年に行われた初のアリーナ公演だろう。あるいはいくつかのロックフェスに出演したことも大きかったのかもしれないが、そうした経験の中で少しずつ大きな会場での手ごたえをたしかめていったことが、こうして今回の武道館公演へとつながったのだと思う。どんな場所だろうと、自分たちは等身大のスピッツでいられる。この日もいつものようにサポートメンバーのクジヒロコを加えた5人編成で演奏し、その合間にゆるい会話を交わして笑う彼らからは、そうした自信がみなぎっているように感じた。
27年間を網羅するセットリストの驚異的な瑞々しさ
そんな初めての武道館公演に、スピッツは全キャリアを網羅するようなセットリストを用意してきた。ツアーもまだ序盤ということで、ここでその内容について細かく触れられないのだが、少なくとも今回の『THE GREAT JAMBOREE "FESTIVARENA"』では、通常のリリースツアーではまずありえないレアなセットリストが組まれている、とだけは伝えておきたい。最新作『小さな生き物』に収録されている楽曲と並んで、“涙がキラリ☆”や“愛のことば”といった、彼らが時代の寵児となった時期のヒット曲はもちろん、リリースから20年以上もの月日が経過している初期の名曲群も、当時と変わらないアレンジで演奏されていく。三輪テツヤの繊細なアルペジオ、田村明浩のうねるベースライン、崎山龍男のパワフルなドラミング、そしてあいかわらず少年のように澄んだ草野マサムネの歌声。この27年間にわたってスピッツの音楽を形作ってきたすべての要素が、驚異的と言いたくなるほどに瑞々しい状態のまま、そこにあるのだ。
ライブの終盤で客席を見渡した草野マサムネが、ふと「奇跡ですね」と漏らしていた。でも、それを言いたくなるのはむしろこっちのほうだと思った。生き馬の目を抜くようなポップシーンのなかで、スピッツはスピッツらしさを失わずに走り続け、ようやくこの舞台に辿り着いた。その奇跡を改めて思い知るような武道館公演だった。
- イベント情報
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- 『SPITZ THE GREAT JAMBOREE 2014 FESTIVRENA』
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2014年7月9日(水)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:東京都 日本武道館
出演:スピッツ
- リリース情報
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- スピッツ
『愛のことば-2014mix-』 -
2014年7月15日(火)から配信リリース
- スピッツ
- 番組情報
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- 『あすなろ三三七拍子』
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2014年7月15日(火)21:00からフジテレビ系で放送
演出:土方政人、植田泰史
脚本:吉田紀子、ふじきみつ彦
原作:重松清『あすなろ三三七拍子』(講談社文庫)
主題歌:スピッツ“愛のことば-2014mix-”
音楽:大友良英
劇中歌:Sachiko M
編曲:江藤直子
出演:
柳葉敏郎
剛力彩芽
風間俊介
高畑充希
大内田悠平
飯豊まりえ
菊池桃子
西田敏行
森口瑶子
ほんこん
反町隆史(撮影:JUNJI NAITO)
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