さながら「再結成ブーム」のようにも見えるが、果たしてこれは何を意味しているのか?
2008年に日本武道館で行われたライブを最後に解散したsyrup16gが、6月27日に再結成を発表。8月27日にニューアルバム『Hurt』をリリースし、9月には東名阪でツアーを開催するとの情報に、SNSでファンからの熱狂的なリアクションが巻き起こったのは記憶に新しい。昨年のdownyやAPOGEE(再始動)、今年の元旦に再結成が発表され、先日恵比寿リキッドルームでの復活ライブを行ったばかりのBURGER NUDSと、さながら「再結成ブーム」のようにも見えるが、果たしてこれは何を意味しているのだろうか?
7月5日、イギリスの人気バンドThe Libertinesがロンドンのハイドパークで再結成ライブを行い、メンバー1人あたり50万ポンド(約8600万円)とも言われる出演料に対し、メンバーのピート・ドハーティが「再結成は金のため」と認める発言をする一方、今年デビューアルバム発売から20周年を迎え、再結成の噂が絶えないOASISのノエル・ギャラガーは、ギャラ40億円のワールドツアーの依頼を断ったという噂もある。もちろん、上記の日本人バンドの再結成は、こういった世界規模のアーティストの例とはむしろ真逆であり、ビッグビジネスの中に身を置かずとも、その外側で活動ができる時代だということを示している。
それぞれのバンドの規模感に合わせた活動が、むしろ以前よりも展開しやすくなった
4月に渋谷クラブクアトロで行われた再始動後2回目のライブで、メンバーのうち2人がそれぞれ医学系の大学院、医学部に進むことが発表されたAPOGEEが象徴的だが、彼らは決して「このバンドで食べていくために」再結成を選択したわけではない。APOGEEの永野亮は現在コマーシャル音楽の作家としても活躍中で、downyの青木ロビンはバンド外の音楽活動に加え、空間デザインやアパレルの分野でも活躍、BURGER NUDSの門田匡陽も自身のソロプロジェクトPoet-type.Mを昨年スタートさせている。バンドの解散理由はそれぞれで、ビジネスとして音楽を続けることに対する疲弊だったり、メンバー間の軋轢などあったようだが、それぞれが基盤となる活動を見つけたからこそ、素晴らしい楽曲を作り、愛すべきファンのいるバンドを再び始動させる決意を固めることができたというのは、多くのバンドに共通している。
もちろん、決して彼らが片手間で再結成をしたわけではないということも、各バンドの再結成後の実績がちゃんと示している。例えば、downyは再結成後2回目のワンマンライブで恵比寿リキッドルームをソールドアウトさせているが、この規模を埋めるというのは再結成以前では考えられなかったことである。これは解散後も彼らの音楽が長く愛され、広められてきたということはもちろん、インターネットによって10年前まで煩雑だった作業が簡略化し、セルフプロモーションも可能となった時代においては、それぞれのバンドの規模感に合わせた活動が、むしろ以前よりも展開しやすくなった結果だとも言えるだろう。
BURGER NUDSと同時代に下北沢で活躍したStereo Fabrication of Youthの江口亮は、バンドの活動を続けながらも、現在はプロデューサーとしても活躍し、いきものがかりをはじめとしたさまざまなアーティストを手掛ける一方で、元School Food Punishmentの内村友美、元GO!GO!7188のターキーらと共にla la larksを結成。彼らはマネージメントをつけず、メンバー自身が活動をコントロールし、コラボレーション相手によって楽曲のスタイルすらも変えるという、非常に面白い存在だ。もちろん、メンバーそれぞれが重ねてきた経験、バンドとしての実力がなければ成り立たない話であり、誰もが同じようなことができるわけではない。しかし、逆に言えば、ミュージシャンとしての核になる部分さえ持っていれば、各バンドに見合った多様性のある活動ができる現在の状況というのは、肯定的に捉えられるべきだと思う。
syrup16gは「鬱ロック」を葬り去ることができるのか?
ただし、薄々お気づきの方もいるかもしれないが、syrup16gに関してはやや状況が異なる。五十嵐隆はかつて「犬が吠える」というソロプロジェクトを始動させるも、アルバムの完成を前に活動は頓挫し、再び沈黙を続けることとなった。つまり、五十嵐にとっては「やっぱり、このバンドしかない」という意味での再結成なのだろう。再結成ツアーの東京公演は東京国際フォーラムホールAと、他のバンドと比べてもともと規模感の大きいバンドということもあり、再結成にあたっては、より一層の覚悟が必要だったことも想像できる。
syrup16gが実際にどんな想いで再結成を決め、今後どんな活動を展開していくのかはわからないが、ひとつ思うのは、今や彼らの代名詞ともなっている「鬱ロック」という言葉を、過去に葬り去ってほしいということだ。同じく内省的な詞世界を持っていたBURGER NUDSの再結成も重なったため、「鬱ロックの復活!」という声を耳にすることもあるが、「鬱ロック」なんて言われて喜ぶバンドはいないだろうし、僕から言わせれば、彼らは誰もが抱える負の感情をただ言葉にし、日常の不確かさを音楽という形で示していたに過ぎない。それが同時期に巻き起こった「青春パンク」との対比もあって、「鬱ロック」と呼ばれるようになったのかと思うが、そもそも多くの人にとって青春とは鬱屈としたもので、少なからず忘れたい過去を伴うもの。「青春パンク」という言葉が使われなくなって、「鬱ロック」という言葉だけが残ったのも、つまりはそういうことだろう。
しかし、そろそろ「鬱ロック」という言葉も必要ないはずだ。かつては隠されていた負の感情は、インターネットを通じて可視化されるようになったし、震災によって日常の不確かさを誰もが経験した現代においては、実際に多くの若いミュージシャンの歌詞がかつての「鬱ロック」的なものになっているが、もはやそれは普通のこと。例えば、大森靖子なんて当時だったら「鬱ロック」の象徴になっていたかもしれないが、彼女はそれをさも当然のように歌うことで、逆により強力なパワーを放っているように感じる。今の時代「女の方が元気で男の方が弱い」と言われるのも、いつまでも「鬱ロック」なんていう言葉を引きずっているからではないかとすら思ってしまう。
syrup16gが日本武道館での解散ライブで掲げたタイトルは、OASISのデビューアルバムに収録されていた楽曲のタイトルを取って、『LIVE FOREVER』だった。生きることは決してたやすくないし、バンドを続けるということもやはり相当に大変なこと。それでも、「LIVE FOREVER」という言葉に、音楽が生み出す一瞬の全能感への、生きることへの執着を込めたsyrup16gを、「鬱ロック」なんて呼んでいいはずがない。
- リリース情報
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- syrup16g
『Hurt』(CD) -
2014年8月27日(水)発売
価格:3,132円(税込)
DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT inc. / UKDZ-0157
- syrup16g
- イベント情報
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- syrup16g『Hurt』リリース記念ツアー
『再発』 -
2014年9月19日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋 DIAMOND HALL
料金:前売4,300円 当日4,800円(共にドリンク別)2014年9月22日(月)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 有楽町 国際フォーラム・ホールA
料金:前売4,900円 当日5,500円2014年9月25日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:大阪府 なんばHatch
料金:前売4,300円 当日4,800円(共にドリンク別)
- syrup16g『Hurt』リリース記念ツアー
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