Bjorkやカニエ・ウェスト、世界的な表現者とコラボレートするデザインユニットの「ポスター展」
Bjorkのジャケットデザインなどで知られる、フランスのデザインユニット「M/M(Paris)」。1992年から活動を始めた二人組は、これまで、ルイ・ヴィトンやヨウジヤマモトなどのアパレルブランド、ヴァネッサ・パラディやカニエ・ウェスト、Madonnaといったミュージシャン、『VOGUE』や『Interview』をはじめとする有名雑誌など、様々な分野の表現者たちと多岐にわたるコラボレーションを展開してきた。そんな彼らの過去20年以上におよぶ作品を紹介するポスター展『M/M(Paris) SUGOROKU DE L'OIE』が、東京・渋谷のパルコミュージアムで開催中だ。
「スゴロク」をモチーフにした会場構成が、「ポスター展」の先入観を覆す
「ポスター展」と言っても、その趣は一般的なそれと大きく異なる。彼らが手がけてきた63枚のポスターは、ケースの中におとなしく陳列されているわけではなく、今展のために新たにデザインされた賑やかな壁紙の上に剥き出しの状態で貼り出されている。ポスターと壁紙の境界が曖昧になった会場は、過去のポスターアーカイブと、現在のM/M(Paris)が描いた壁紙とが渾然一体になった、1つの巨大なインスタレーション空間になっている。
『M/M(Paris) SUGOROKU DE L'OIE』会場風景
迷路のように入り組んだ会場のモチーフとなったのは、ヨーロッパの伝統的なスゴロク「鵞鳥のゲーム(仏語Jeu de l'oie)」だ。このゲームでは、今回のポスター数と同じ63個のマスが螺旋状に描かれた盤面を、プレイヤーがサイコロの目に従って進む。だが、あるマスに止まるとコマは別地点にワープし、スタート地点に戻されることもある。一歩ずつ進み、時間的にも空間的にも整理されていた思考が、予期せぬタイミングで、暴力的に乱されてしまう。M/M(Paris)のマティアス・オグスティニアックは、不条理な飛躍に翻弄されることを楽しむそんな「スゴロク」というゲームについて、「まるで人生と同じだ」と言うが、これと似た感覚が今回の展示体験にはある。
『M/M(Paris) SUGOROKU DE L'OIE』会場風景
広告の現場を立脚点にしながらも、「アートシーンにおける重要人物」と見なされる理由
ところでM/M(Paris)がギャラリーで展示を行うのは、今回が初めてではない。過去にはパレ・ド・トーキョーのような主要美術館でも、ポスターを素材とした作品を発表している。加えて、アーティストとの交流も多い。今回の出品ポスターだけ見ても、リクリット・ティラバーニャ(アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれのタイの現代アーティスト)、ピエール・ユイグ(1990年代から活動する、フランスの映像作家、現代アーティスト)、リアム・ギリック(1964年生まれ、現在ニューヨークにて制作活動を行う)などの錚々たるアーティストが、彼らとこれまで仕事をしてきたことがわかる。2012年のモノグラフには、ともに現代を代表するキュレーターのニコラ・ブリオーやハンス=ウルリッヒ・オブリストが登場。後者は、M/M(Paris)を「1990年代前半以降のフランスのアートシーンにおける重要人物」とさえ言っている。実際、彼らの作るポスターは、たとえ広告的な仕事であっても、一般的な商業ポスターのイメージから大きくかけ離れている。そのビジュアルの魅力を考えるとき、こうしたアートの世界との関係は重要なキーだろう。
彼らが作り出すイメージからは、そこにいるはずのクライアントの気配がほとんどしないのだ。むしろ、それが何の広告か、何を受け手に示したいのか、よく見ても分からないものすらある。その姿勢は、広告の中で重要な意味伝達を担う、文字のデザインにも現れている。今回の出品作『slash』や『period』(2010)を見て、それが「スラッシュ(/)」や「ピリオド(.)」を表現していると即座に気が付ける人が、どれだけいるだろうか?
『M/M(Paris) SUGOROKU DE L'OIE』展覧会ポスター
「因果を混乱させる」という手法で問い直す、デザインの意味
展覧会にせよポスターにせよ、M/M(Paris)の仕事に共通して流れているのは、その場の前提を混乱させる、独特の作法だ。じっくり検証されるはずだった過去の名作ポスターは、その背景に現れた壁紙によって、現在時に引っ張り出される。クライアントと受注者の立場は単なる主従関係ではなく、広告はむしろ、後者が主導権を握る場となる。そしてそこでは文字さえも、その主人である「意味」から自由になっている。
しかし、その因果の混乱によって現れる次元こそ、デザインが関わるべき次元と言えるのではないだろうか。デザインが、求められた目的地への単なる通路ならば、それはもはや、ただの筒のような存在でしかない。だからM/M(Paris)の作品は、いつも過剰なまでのイメージに満ちている。迂回路やトラップがたくさん詰まった、「楽しいスゴロク=人生」のように。
- イベント情報
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- M/M(Paris)
『M/M(Paris) SUGOROKU DE L'OIE』 -
2015年4月3日(金)~4月20日(月)
会場:東京都 渋谷パルコパート1 3F パルコミュージアム
時間:10:00~21:00(入場は閉場の30分前、最終日は18:00閉場)
料金:一般500円 学生400円
※小学生以下無料
- M/M(Paris)
- プロフィール
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- M/M (Paris)(えむえむぱりす)
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ミカエル・アムザラグとマティアス・オグスティニアックによって1992年に結成された、パリを拠点に活動するクリエイティブユニット。20年以上にわたりファッション、アート、音楽、デザインと多分野において活躍し、象徴的かつ影響力の強いデザイン&アートで世界中の人々を魅了させている。彼らの手掛ける多くの作品でオリジナルのタイポグラフィを用いられることがあり、表現方法の一つとしてタイポグラフィの重要性の高さが窺え、2003、2004、2012年度の東京TDC賞(タイポディレクターズクラブ)も受賞。また、ファッション、音楽関係の仕事が顕著で、これまでのコラボレーションワークとして、A.P.C.、Balenciaga、Calvin Klein、Dior Homme、Givenchy、Jil Sander、Loewe、Louis Vuitton、Missoni、Sonia Rykiel、Stella McCartney、Yohji Yamamoto、Yves Saint Laurentなどのビックメゾンやデザイナーが連なる。音楽の分野でも、2013年にグラミー賞の最優秀レコーディング・パッケージ賞を受賞したビョークの『Biophilia』を代表に、ヴァネッサ・パラディ、カニエ・ウェスト、マドンナといった著名アーティストのアルバムアートワークやミュージックビデオを手掛ける他、『Vogue Paris』、『Purple Fashion Magazine』、『Arena Homme+』、『Interview Magazine』等の雑誌のアートディレクションも手掛ける。また、2012年には、活動20周年記念として500ページを越える作品集を出版した。
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