Squarepusherと三人の地球外生命体によるバンド・Shobaleader One
Squarepusher率いる謎の覆面バンド、Shobaleader Oneのデビューアルバム『Elektrac』がリリースされた。メンバーはSquarepusher(Ba)、Arg Nution(Gt)、Strobe Nazard(Key)、Company Laser(Dr)の4人編成。公式インタビューによれば、Squarepusher以外の三人は地球以外の惑星からやってきた生命体(?)らしく、すでに何千年も前からの知り合いだという。地球上では、便宜的に木製と鉄製の楽器を操り、観客とのアイコンタクトに伴う危険を避けるため、LEDの点灯により画像を表示するマスクを被ったまま演奏している。今回のプロジェクトはどうやら、いつものSquarepusherではないらしい。
『Elektrac』のショートムービー。「SILENCE IS COMPLICITY, REMEMBER?」という謎のメッセージが浮かび上がるShobaleader Oneと言えば、2010年にリリースされた『d'Demonstrator』を思い出す人も多いだろう。このアルバムは、「美しいロックバンドによる超絶的なプレイを鑑賞したい」というSquarepusherの白昼夢を、彼がたった一人で形にした『Just a Souvenir』(2008年)がヒントになっている。要するに、彼の白昼夢を具現化するため、実際にバンドメンバーを集めて作られたのが『d'Demonstrator』であり、そのバンドこそがShobaleader Oneというわけだ。
超絶技巧の生演奏で再現される、美しきエレクトロニカの世界
本作『Elektrac』は、そんな彼らがSquarepusherの名曲をカバーした2枚組のライブレコーディングアルバムである。凄腕ベーシストのSquarepusherをして、「恐ろしいほど優れた名プレイヤー」と言わしめたメンバーたちによる演奏は、まさに「圧巻」の一言。しかも、Squarepusherの楽曲に内包されているジャズやフュージョン、AOR、メタル、ハードコア、そしてもちろんロックやポップスなどの要素を、シンプルな生楽器のアンサンブルによってむき出しにしており、改めてSquarepusherの折衷的な音楽性に気づかされるのである。
Shobaleader One『Elektrac』ジャケット(Amazonで見る)
収録曲を見てみると、Squarepusherの1stアルバム『Feed Me Weird Things』(1996年)から3曲、2ndアルバム『Hard Normal Daddy』(1997年)から2曲と、初期作からのカバーが半分を占めている。Aphex Twinことリチャード・D・ジェイムス主宰のレーベル「Rephlex」からリリースされた『Feed Me Weird Things』は、80~90年代初頭の機材を駆使した打ち込みトラックの上で、Squarepusherの生弾きベースが唸りまくるという斬新なスタイルで当時のテクノ~エレクトロニカシーンで一躍脚光浴びた。
このアルバムからShobaleader Oneが取り上げた楽曲“The Swifty”は、ダブっぽい音響処理と洗練されたコード進行、まるでジャコ・パストリアスのように自由に動き回るベースが印象的。“Deep Fried Pizza”はスラップベースを大々的にフィーチャーしたファンキーチューンで、ジャズとドラムンベースを融合させた“Squarepusher's Theme”は、まさにタイトルどおりSquarepusherのステイトメントとも言える楽曲だ。
『Hard Normal Daddy』は、1stアルバムの世界観をさらに推し進めたもの。“Coopers World”はエレビの美しい響きと、シンセのビープ音、軽やかなギターのカッティングが入り混じるファンキーな楽曲。“E8 Boogie”は、緩急自在に変化するテンポと小刻みに打ち鳴らされるパーカッション、その上をゆったりと漂うアナログシンセのコントラストが鮮烈だ。
2ndアルバムの未発表曲で構成された同年のEP『Big Loada』(1997年)からは、“Journey To Reedham”をピックアップ。すでに公開されている、Shobaleader Oneのライブ映像で披露しているのがこの曲のカバーだ。ちなみにオリジナルバージョンも、シンセのキャッチーなリフにAphex Twinばりのドリルンベースが絡むマッドな名曲。
Shobaleader Oneで過去の名曲を大々的にフィーチャーする意義
1998年にリリースされたアルバム『Music Is Rotted One Note』からは、“Don't Go Plastic”。このアルバムは、Squarepusherが初めて生演奏のみで作ったもので、打ち込みは一切なし。歪んだエレピとオルガン、エフェクティブなベースによるサイケデリックなアンサンブルが聴きどころである。
『Music Is Rotted One Note』収録のオリジナルバージョン続く1999年リリースの『Budakhan Mindphone』からは、大名曲“Iambic 5 Poetry”をセレクト。やるせないほど美しいコード進行と、徐々に盛り上がっていくシンプルなドラミングは、まるで彼の心象風景を映し出しているかのよう。
『Budakhan Mindphone』収録のオリジナルバージョン“Anstromm Feck 4”が収録されているのは、2002年リリースの『Do You Know Squarepusher』。前作『Go Plastic』のリリースを経て『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演した直後、謎の失踪騒動を起こすなど、Squarepusherの精神状態が危ぶまれるなかリリースされたアルバムである(しかも、Joy Divisionのカバーまでしている……)。
『Do You Know Squarepusher』収録のオリジナルバージョン“Delta-V”は、先述のアルバム『Just a Souvenir』に収録されている楽曲で、前述の通りこのアルバムは、エレキギターを多用しロックへのアプローチを試みたものである。そして、“Megazine”は『d'Demonstrator』からの楽曲で、Shobaleader Oneによる「セルフカバー」と言って差し支えないだろう。アレンジも原曲にほぼ忠実だ。
『d'Demonstrator』収録のオリジナルバージョン以上、Shobaleader Oneが取り上げているSquarepusherの楽曲をもとに、オリジナル曲の生まれた背景をざっと振り返ってみた。『Elektrac』は、Squarepusherのソングライティングの真髄を垣間見せてくれ、その深遠なる世界への入門盤としても有効だろう。
なお、4月にはShobaleader Oneによる来日ツアーも決定しており、サポートアクトには、にせんねんもんだいが抜擢された。太陽系外惑星からやって来た、超絶プレイヤーたちによるSquarepusherのカバー演奏を今世紀中に、再び観られるかどうかはわからない。さすれば何としてでもこの目で目撃しておきたいものだ。
- リリース情報
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- Shobaleader One
『Elektrac』日本盤(2CD) -
2017年3月8日(水)発売
価格:2,700円(税込)
BRC-540[CD1]
1. The Swifty
2. Coopers World
3. Don't Go Plastic
4. Iambic 5 Poetry
5. Squarepusher Theme
[CD2]
1. E8 Boogie
2. Deep Fried Pizza
3. Megazine
4. Delta-V
5. Anstromm Feck 4
6. Journey To Reedham
- Shobaleader One
- イベント情報
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- 『Shobaleader One来日ツアー』
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2017年4月12日(水)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST
出演:
Shobaleader One
にせんねんもんだい2017年4月13日(木)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
出演:
Shobaleader One
にせんねんもんだい2017年4月14日(金)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO
出演:
Shobaleader One
にせんねんもんだい料金:各公演6,000円(ドリンク別)
- プロフィール
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- Shobaleader One (しょばりーだー わん)
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エレクトロニック・ミュージックの鬼才にして、凄腕ベーシストとしても知られるSquarepusher率いる覆面バンド。2010年、Squarepusherのソロ作品『d’Demonstrator』を機に結成。当時は5人編成だったが、現在は、Squarepusher(Ba)、Arg Nution(Gt)、Strobe Nazard(Key)、Company Laser(Dr)の4人編成。ステージでは超凄腕の4人がLEDをピカピカ光らせる覆面をかぶり演奏する。2017年3月8日、Squarepusherの数々の名曲を迫力の生演奏で再現したデビューアルバム『Elektrac』をリリース。4月には東名阪の来日ツアーも控える。
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