2004年のシンガーソングライターとしてのデビュー以来、音楽活動と並行してロンドン芸術大学でファインアートを学ぶなど、画家としても高い評価を受けているRie fuが、8年間在籍したメジャーレーベルを離れ、「株式会社Rie fu」を設立。本日11月21日に「Rie fu & the fu」として、エンジニアにzAkを迎えたニューアルバム『BIGGER PICTURE』をリリースする。混沌とした状況が続き、正解の見えない音楽業界にあるなかで、大きな決断を下した彼女は何を思うのか? インタビューの最中、何度も繰り返し発した「広い視野で」(=BIGGER PICTURE)という言葉の意味とは? 会社設立までの経緯について、「化けの皮がはがれた」というアルバムについて、そして自由な世界へ飛び出した自身の未来について、たっぷりと語ってもらった。
Rie fu
2004年、マキシシングル『Rie who!?』でデビューと同時に渡英、2003年から2007年まではロンドン芸術大学でファインアートを学び、日英を往復しながら活動。2007年より日本に拠点を移し、定期的に個展を行い画家としての活動も続けている。2009年には井上陽水のツアーに参加。ORANGE RANGE NAOTOのプロジェクト、delofamiliaへの加入。ソニーよりアルバム5枚、シングルコレクションリリース後、2012年に(株)Rie fu設立。
Rie fu
事業として成り立つことが前提で、そのなかで自分がやりたいことができればなっていう。
―まずアルバムの話の前に、事務所をやめて自分の会社を作られたんですよね?
Rie fu:そうですね。今年の4月に。いままでの印税の貯金を資本金にして(笑)。
―リアルですね(笑)。会社は一人で作ったんですか?
Rie fu:自分で出資して、自分が代表で、社員もいなくて。8年くらいソニーでお世話になっていたんですけど、曲作りとかアレンジとか、いろんなアイデアとか、わりと自分で出すタイプだったんですね。だから、独立したほうが好きなことを思いっきりできるんじゃないかって、まわりのスタッフも後押ししてくれて。会社を作ったのは、フリーという形でも全然活動できると思うんですけど、自主制作のCDとか、自主企画のイベントとかっていう言葉の響きだけだと、自己満足的な響きにもなりかねないなと思ったんですよね。やっぱり事業として成り立つことが前提で、そのなかで自分がやりたいことができればなっていう。
―じゃあ、いまは自分の活動に関することは全部Rie fuさんを通して、自分で考えて、決断して?
Rie fu:そうですね。ただ、ライブはイベンターさんにお願いしたり、CDは流通会社や出版会社にお願いしたり、日々の経理は税理士さんにお願いしていたりもするので、できることとできないことは最初にしっかりと分けましたね。
―実際に自分で会社を作ってみて、何が大変ですか?
Rie fu:暇がまったくなくなったことですかね。実を言うと、ソニーにいた頃はリリースがないとけっこう暇になっちゃうこともあって(笑)。例えば、1曲リリースするにしてもタイアップがないと出せなかったりとか。会社としては、曲がいいからこそタイアップをつけてリリースしてあげたいっていう考えだと思うんですけど、なかなかそのご縁がない時期もあったりして。そういうときに「暇だなぁ……」って(笑)。いまは自分が動かなければ何も変わらないので、常に動き続けないといけない。気を抜けないというか。だから、ひとつのことが大変というより、動き続けること自体が難しいですね。
Rie fu
―でも、一人でやっていると、曲を作りたいのに事務作業に追われてしまうとか、そういうこともあるんじゃないですか?
Rie fu:それが意外となくて。人間が機械だとしたら、モーターが動き続けてる状態というか。事務的なことで仕事が増えて、モーターが動いている状態だと、その勢いで制作にも向かえるので、普段だらっとしてるよりはモチベーションも上がるし、効率もよくなった気がしますね。もともと夜ご飯を作るくらいの感覚で曲はできていたんですけど、いまOTOTOYの「fu diary」という企画で毎月曲の配信をしていて、この半年で18曲作りました。日記のような感じで、文章と一緒に配信してるんです。
このアルバムによって、何気ない日常や普通の風景も広い視野で見られるひと押しになったらいい。
―新しいアルバムはそれと並行してリリースされるんですよね。日記的に配信しているものとの違いは?
Rie fu:絵に例えると、日記のような曲は毎日のスケッチという感じで、アルバムは1枚の大きな油絵を完成させるような感じですね。スケッチだけじゃなくて細かく描き込んでいったり、アルバムの1曲ずつがそれぞれ絵の色を構成していたり。10曲でひとつの作品という感覚がありますね。
―これは日記的にしよう、これはアルバムにしようみたいなのは、どうやって決めてるんですか?
Rie fu:より細かく描写したいと思うテーマのものはアルバムの曲にしてますね。それに対して「fu diary」で配信している曲は、旅行に行った後に作った時差の曲とか、『フジロック』に行ったら『フジロック』の曲とか、日々の一面を切り取ったような曲で。まぁ、それぞれテーマはあるんですけど、細かく描写するよりも、その瞬間の「わ〜」っていう感覚を形にできたらいいなということで残しています。
―確かに日記的ですね。
Rie fu:アルバム曲は聴く人それぞれの生活が目的地というか。音楽も絵も同じなんですけど、その作品が受け手の生活にどう影響を及ぼすかということにすごく興味があって。そこに到達したい想いが強いので、それぞれの生活で直面するテーマが題材になりやすいですね。今回のアルバムだと、例えば“Lucky Day”はテレビの星座占いとかで、自分の星座が1位だと1日ハッピーだったりとかあると思うんですけど、それって気の持ち方次第で毎日ラッキーになれるというメッセージを伝えています。アルバムのタイトルも『BIGGER PICTURE』ということで、このアルバムによって、何気ない日常や普通の風景も広い視野で見られるひと押しになったらいいなって。
―ちなみに、Rie fuさんは絵も描かれますが、音楽の表現とはどのように制作のモードを切り替えているのでしょうか?
Rie fu:切り替えているという感覚はないんですよね。どちらもご飯を作るような感覚という意味で、同等のものというか。ただ、絵を描くときは、写真を撮って、そこから絵を起こすんですね。工事現場を描くのが好きなんですけど、それもカラーコーンが延々と並んでいるのが視覚的な構図として格好いいなっていう。それに対して音楽は、メッセージだったり、もっと目では見えないものを扱っていますね。
Rie fu iphoneケース『fu palette moji』
Rie fuがデザインしたiPhoneケース(CINRA.STOREで販売中)
―アルバムの曲は全部独立してから作った曲ですか?
Rie fu:独立してから作ったのは1〜2曲目だけですね。実は“THE LOOK”は17才のときに作った曲だったり。そういう意味では制作期間が10年くらいに(笑)。
―1〜2曲目は骨太感が強いですけど、Rie fuさんの最新のモードとしては、そういう方向なんですか?
Rie fu:プレスリリースで「化けの皮がはがれた」っていう表記をしたんですけど、より素の部分というか、本質的なものをテーマにしたいし、自分のなかの原始的なリズム感をどんどん表に出していきたいなって。なので、シンプルで、骨太で、力強いけど、歌の力がいちばん伝わるっていうのを音作りでは心がけましたね。
―そうした要素はメジャー時代は抑えていた?
Rie fu:タイアップに合わせたサウンドとか、そういうのはどうしてもありましたね。それが悪いわけではないんですけど、今回は独立したからこそ、歌や曲自体の力を表現したいっていうのはありました。ここぞとばかりに。
―制作の過程で、いままでとの違いは?
Rie fu:全然違いますね。いままでは家でまず作って、それをアレンジャーやプロデューサーにアレンジしてもらって、ライブのときはまたライブアレンジで違うミュージシャンにっていう。しかも1曲ずつアレンジャーやプロデューサーが違うことも多かったんですけど、今回のアルバムは普通のバンドだったら普通にやっているようなプロセスで。最初に曲を作って、バンドメンバーに聴いてもらって、スタジオに入ってアレンジや曲の構成を調節して、同じメンバーでレコーディングして、ライブも同じメンバーでやって。本当にバンドとしては普通のことなんですけど、ソロのシンガーとしては新鮮なプロセスでしたね。
―そういう意味での「Rie fu」じゃなくて「Rie fu & the fu」?
Rie fu:そうですね。その「& the fu」はバンドのひとりひとりでもあるし、独立してサポートしていただいているみなさんとか、ファンの方とか、なんとなく広い意味で。あとは響きが洒落ているというか、冗談っぽいところもいいなって(笑)。
―今回、一緒にやられている方々は、いままでも交流があった人たち?
Rie fu:昨年末から今年のはじめにかけてライブをできる機会があって、そのときと同じメンバーです。鹿島(達也)さんはデビューのときからベースを弾いていただいていて、ドラムの菅沼(雄太)さんも鹿島さんの紹介で、ギターのコーヘーはdelofamilia(ORANGE RANGEのNAOTOとRie fuを中心としたバンド)でも弾いていたりして。すごく信頼する三人にお願いできたので、曲作りの段階でも、「鹿島さんだったらこういうベースを弾くかな?」とか、ミュージシャンからもインスパイアされましたね。
―このメンバーを前提に作ったわけですね。
Rie fu:zAkさんもdelofamiliaでレコーディングしたのがきっかけでお会いできたんですけど、もう本当にエンジニアとか、そういう規模を超えた音のアーティストっていう感じで。録音された自分の声を後から聴いても、「こんな声、自分でも聴いたことない!」っていうくらい、本当にストレートで立体的に入ってきて。もう、粒子が違うんですよね。スタジオに備長炭がいっぱいあったりとか。空気をよくするところから。delofamiliaのレコーディングでzAkさんと知り合った後に、このアルバムの構成を考え始めたので、そこも「zAkさんの音だったらこういう曲が合うかな?」って。幸運なことにzAkさんに録っていただけることになったので、本当に最初に描いていたコンセプトが形になったんですよね。
自分が進まないと何も進まないという状況になったからこそ、じゃあどの道を進めばいいのかっていうのがより見えてきた。
―Rie fuさん自身の環境も変わって、歌詞の視点もだいぶ変わったんじゃないですか?
Rie fu:今回は英語の歌詞も多かったんですけど、これからはやっぱり『BIGGER PICTURE』ということで、より広い視点で、日本以外の英語圏にも届けたいなって。いままで聴いてくださった日本の方にも届けたいということで、日本語の曲も入れてあるんですけど、このアルバムをステップにもっと大きな世界に飛び出したい、もっと幅広いものを作っていきたいという意味を込めて、曲のセレクションをしましたね。
―新しく作った“OMG”は、まさに自分の境遇を歌ってるように感じられますけど、実際のところはどうなんですか?
Rie fu:そうですかね? 自分のことを歌ったつもりはないんですけど……。狭い音楽業界のなかで成功して、それに憧れていたんだけど、いざ成功したら、実は自分がまわりに媚を売っていただけだったという。ちょっと皮肉めいたスターの話なんですけど、私はスターでもないので……。
―でも、どうしてそういうストーリーが出てきたんですか?
Rie fu:やっぱり音楽をビジネスにすることによって、そのアーティスト自身がビジネスに媚びたり、自分自身ではない姿になってしまったり。そういうことがこの業界ではあるんだなという分析で書いた歌ですね。音楽業界に対する批判ではないんですけど、それも『BIGGER PICTURE』ということで、広い視野で見ると、そういう切り口もあるんじゃないかなと思って。
―実際、Rie fuさん自身には大きな変化があったわけですよね? リスナーからすると、どうしてもRie fuさんの境遇と重ねあわせて聴くと思うんですよね。大きい会社から独立してっていう背景を思い描きながら、「あなたは何が必要かわかってない」なんて歌詞が出てくると、いろいろ想像しちゃって。
Rie fu:確かに自分が出すものは全部自分を反映しているし、リスナーそれぞれの解釈で聴いていただければとは思いますけど、私としては、大きな会社から独立して、小さいインディーズになったというよりは、分厚い壁の温室から野生の世界に飛び出したっていう感じで。より広い『BIGGER PICTURE』な世界にいるっていう感覚です。そういうなかで、何を言っても結局は自分に返ってくるから、より本音を出したいっていうのもあって、「化けの皮がはがれたRie fu」という気持ちではありますね。
―より初期衝動的なものが強くなったのかなと思う反面、お話を聞いていると客観的になったような気もするし、Rie fuさん個人的にはどういう感覚ですか?
Rie fu:初期衝動が自分のなかで芽生えつつ、同時にそれを客観的に見ないと、という変な感じですね。野生の世界に来たからこそ、自分で統制しないと、本当にカオスな感じになっちゃうみたいな危機感もあるので。
―そういうのがすごい渦巻いてる感じがするんですよね。
Rie fu:渦巻いてますね、確かに(笑)。でも、メジャーでいろんな経験をさせていただいたからこそ、客観的に見られるようになったので。そこはいままでの経験に対して、より感謝するようになりましたね。やっぱりレーベル内にいたときは、早く独立したいとか、自分の好きな作品をタイアップなしでも出せないのかとか、いろいろ文句を言ってたんですけど、いまは自分に文句を言うだけというか。そういう意味で、開き直るというか、理にかなった活動だなと思いますね。
―いまはレコード会社とかそういう時代じゃないみたいなことが言われてたりしますけど、お話を聞いていると、そういう考えの独立とはちょっと違いますよね。
Rie fu:そうですね。いまの自分に合った環境を考えたときに、こういう形になったというか。メジャーレーベルがタイアップありきだったり、音楽がその付属品という時代になってしまっている。それが悪いわけじゃないんですけど、リスナー側も音楽の吸収の仕方が変わってきたと思うんです。まずCMや映画で音楽を聴いて、そこから情報を得る社会になってしまったことにも原因があると思うので、メジャーレーベルがそれに沿った売り方を始めたという意味では、どっちが悪いとも言えないですからね……。
―Rie fuさん的な活動のゴールは、どうイメージされてるんですか?
Rie fu:この仕組みができている日本の音楽社会は、ある意味救いようがないし、自分一人の力でその仕組みを変えることは難しいと思うので、1回その状況から飛び出さないと大きな進化はできないと思うんです。だからイギリスやアメリカをはじめとする英語圏のインディーレーベルとかから、日本人としての才能という意味ではなく、もう一度いちシンガーソングライターとしての才能を認めてもらえるように、また新たな曲のカタログを作って、アプローチして、そこからまた日本に戻ってくることができれば、一石を投じられるんじゃないかなと。なんかエラそうなこと言ってますけど……(笑)。でも、自分が進まないと何も進まないという状況になったからこそ、じゃあどの道を進めばいいのかっていうのが、より見えてきたので、これからが自分でも楽しみですね。
Rie fu & the fu
『BIGGER PICTURE』(CD)
2012年11月21日発売
価格:3,000円(税込)
DDCZ-1839
1. OMG
2. BIGGER PICTURE
3. LUCKY DAY
4. UNTOLD
5. PRE-LOVE SONG
6. FREE MONEY
7. THE LOOK
8. GOMI
9. JUST LIKE THE MOON
10. SILENCE
『Welcome to at Rie TOUR 2013』
2013年1月30日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 WWW
2013年2月1日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:名古屋県 TOKUZO
2013年2月3日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:大阪府 Sha ngri-la
料金:全公演 前売4,000円(ドリンク別)
『Art Wave Exhibition vol.14 創造のイノベーション』
2012年11月27日(火)〜12月1日(土)
会場:東京都 茅場町 RECTO VERSO GALLERY
時間:13:00〜19:00(土曜は16:30まで)
出展作家:
舩越里恵
塚本誠子
珱麻
山田裕子
休廊日:日、月曜、祝日
※Rie fuは舩越里恵名義で出展
- リリース情報
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- Rie fu & the fu
『BIGGER PICTURE』(CD) -
2012年11月21日発売
価格:3,000円(税込)
DDCZ-18391. OMG
2. BIGGER PICTURE
3. LUCKY DAY
4. UNTOLD
5. PRE-LOVE SONG
6. FREE MONEY
7. THE LOOK
8. GOMI
9. JUST LIKE THE MOON
10. SILENCE
- Rie fu & the fu
- イベント情報
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- 『Welcome to at Rie TOUR 2013』
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2013年1月30日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 WWW2013年2月1日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:名古屋県 TOKUZO2013年2月3日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:大阪府 Sha ngri-la料金:全公演 前売4,000円(ドリンク別)
- イベント情報
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- 『Art Wave Exhibition vol.14 創造のイノベーション』
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2012年11月27日(火)〜12月1日(土)
会場:東京都 茅場町 RECTO VERSO GALLERY
時間:13:00〜19:00(土曜は16:30まで)
出展作家:
舩越里恵
塚本誠子
珱麻
山田裕子
休廊日:日、月曜、祝日
※Rie fuは舩越里恵名義で出展
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- Rie fu
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2004年、マキシシングル『Rie who!?』でデビューと同時に渡英、2003年から2007年まではロンドン芸術大学でファインアートを学び、日英を往復しながら活動。2007年より日本に拠点を移し、定期的に個展を行い画家としての活動も続けている。2009年には井上陽水のツアーに参加。ORANGE RANGE NAOTOのプロジェクト、delofamiliaへの加入。ソニーよりアルバム5枚、シングルコレクションリリース後、2012年に(株)Rie fu設立。
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